初めまして。「古典酒場」という雑誌の編集長をしている倉嶋紀和子(くらしま・きわこ)と申します。朝も昼も夜も問わず、酒をかっ喰らっている酔っぱらい女でございます。この度、愛してやまない地元・中央線の酒場を、好きにはしご酒していいよ。そんな有頂天なお話を頂戴し、さっそく呑み歩きさせていただいた次第です。まずは、愛着深い町・西荻窪から。戎帝国と称されるほど、南口にも北口にも、とくに南口の横丁での侵食が目覚ましい老舗酒場・戎がランドマークともなっている西荻窪ですが、新生バルなども多く、重鎮から新顔まで、幅広い酒場が、みんなげんきに営業している素晴らしき町でもあります。横丁でへべれけになっているおっさんもいれば、コジャレバルでグラスを傾けている素敵女子もいる。それがなんの違和感もなく渾然一体となっている。なんて懐の深い町なのでしょう。そんな酒呑み天国な町で、あたしの定番はしご酒コースを、ガチンコ酩酊しながら、ご紹介させていただきます。
マトントリッパカレーと日本酒。水丸さんの味「ラヒ・パンジャービー・キッチン」
まずは、ここ。カレーとパキスタン家庭料理のお店。これからはしご酒するっていうのに、いきなりカレー? 驚く無かれ。ここには、呑んべえに嬉しい「晩酌セット」なるものがあるのだ。シークカバーブやタンドリーチキンなどのおつまみ1品と、ビールやワインがセレクトできるお得なセット。まずは、インドビール・マハラジャで喉を潤し、シャーミカバーブ。薄焼き卵の中には、肉の塊が鎮座。羊肉の独特な旨味がギュッと詰まっており、実に肉肉しい♥ これに、ラヒ特製の緑のソースをつけつけ。うんメェ~~。正体は、コリアンダーチャツネ。羊肉との化学反応で、脳天くだけそうなほどの美味しさ。これ、瓶ごと舐めまわしたいわぁ。市販してくれないかしらん~。胃袋トロケて、本当はこのセットでやめておくつもりだったところ、マトントリッパカレーをオーダー。これもつまみ。だからモチのロンでノンノンライス。カレーだけを舐めながら、呑むのです。その片手には、新潟は村上の銘酒・〆張鶴。ありゃま、カレーに日本酒とな!? そう、そうなんです。敬愛してやまない安西水丸さんが愛した味。それがカレーと日本酒。ここはその水丸さん行きつけのカレー屋さん。裏メニューで、今でも〆張鶴をおいてくださっているとか。
にしても、ここのマトントリッパカレーは、実によくお酒を進ませる。もつ焼き屋のモツカレーももちろん美味だけれど、ここは正真正銘のカレー店。スパイスのきき方が絶妙なのである。
さて、1軒目から、すでに当初の予定を脱線し始めておりますが、それも酔い酔い。事前に立てた予定を、破壊しまくる。それもはしご酒の楽しみであるのです。
- ラヒ・パンジャービー・キッチン
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住所 杉並区西荻南3-15-17-2F 電話 03-3331-7860 営業時間 ランチ12:00~15:00、ディナー17:00~23:00 定休日 月曜(月曜祝日の場合、火曜)
総重量250グラム! 横綱級つくねで、ホッピー♬「焼きとり よね田」
ほろ酔いで向かうは、2007年創業と、この界隈ではちょい新顔の酒場「よね田」。老舗か? と思うほどの風格を携え、今や、開店とともに即満席になる大人気店。ここでのあたしの定番席は、ビニールシートに囲われた、外呑み席。冬は寒く、夏はめちゃ暑い。けれど、焼き場の真ん前は、あたしにとっては特等席。焼き方の手技を眺めながら呑む酒が、これまた旨いのである。
まずはホッピーをいただきながら、つくね with 目玉焼きを注文。このつくね、250グラムもあるという目をみはるほどのビッグサイズ。焼くのに時間を要するので、席についたと同時に注文するのがオススメ。目の前で、丘のようにこんもり盛り上がった肉棒=つくねが焼きあがっていくのを眺めながら食すは、ポテサラ。これ、あたしのドツボの味。酸味がきいていて、舌触りはクリーミー。まさに飲むポテサラ。酸っぱいもの好きゆえ、この酸味もこれまたくせになるんです。ますますホッピーが進むなあ。お代わり!
中身(焼酎)ダクダクのよね田ホッピーで、肝臓がカッカッとなるのに恍惚としながら、これまたここの看板メニュー、マグロ中落ちをつまんでいたところで、おつくね様登場。とろりととろけ出てくる半熟目玉焼きを崩しながら、つくねをがぶり。う~ん、この充実感。たまりませんなぁ。やっぱり、肉ですよ、肉。暑いときこそ、肉を喰らわば、ですよ。肉薫が体中に充満したところで、お次へ参りますか。。
- 焼きとり よね田
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住所 杉並区西荻南3-11-10 電話 03-3334-2094 営業時間 16:00~23:30 定休日 無休
食べてみるまで何かわからない。不可思議な酒肴で、頭ぐるぐる「みちのくらさん」
肉々しい笑顔を浮かべながら向かうは、駅をさらに南下した路地裏にある東北の銘酒酒場。この町で呑む度に、ヘッロヘロで辿り着き、よもやの寝落ちまでかましてしまったこともある、あたしにとってはマイホームのようなお店。とある酒呑み番組でも、最後にここに流れつき、大好物の「エロうま豆腐」を紹介するくだりで、泥酔の挙句、「エロ~、エロ~」しか発せないほどであった。せっかく番組でご紹介できる機会だったのに。大将、ほんと、ごめん!
こんな出来損ないを、いつも笑顔で迎え入れてくれるのが、ここの大将。世界を股にかけて旅をし、そこで蓄積した知識を活かして創意工夫満載のつまみを作り出す御方。「エロうま豆腐」(葱油など4種類の油を熱したものをお豆腐にかけたもの)しかり、「たい焼きステーキ」(これは食べてのお楽しみ♥)しかり。まあ、とにかく、来る度に、おもしろ酒肴が加わっているのだ。まるで酒呑みのテーマパークのよう。この日も、東北の銘酒・阿部勘をいただきながら、「エロうま豆腐」に舌鼓をうっていた所に、「こんな料理、作ってみたんだけれど」。出てきた酒肴が、「怪しい焼き鳥」と名付けられた、不可思議な酒肴。まるでリエットのような。。。もぐもぐ。うん、焼き鳥だ。串に刺さっていた鶏肉(=焼き鳥)を串から外し、ペースト状にしたレバーにからめたもの。なぜに、わざわざそんな手間隙をかける? そんな疑問も雲散するほど、見事な一体感。ほんと、不思議だ。。。メニューの説明をされればされるほど、一体自分が今、何を食べているのかわからなくなるんだなあ、ここでは。
- みちのくらさん
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住所 杉並区松庵3-38-15 電話 03-3334-8654 営業時間 17:00~23:30(L.O) 定休日 火曜(日・祭日は営業)
さあ、今宵も呑んだ、呑んだ。日本酒にシャリキンハイサワー、梅酒ホッピー。。。を呑んだことであろう。なにせ、今宵もきれいさっぱり記憶を喪失しておるのだ。呑んで記憶喪失、これを恐れるなかれ。
この後の〆飯としては、南口の横丁にある「珍味亭」がお気に入り。豚足にかぶりつきながら瓶ビールをぐいっ。そしてビーフンで〆。ここまで正気でいられれば、最良の夜となる。今宵はもう、正気じゃないけれど。。。