高円寺の人気カレー屋の店主 3 人に話を聞く

高円寺の人気カレー屋の店主 3 人に話を聞く

左から大江健太郎さん(大江カレー)、児島麻里子さん(月曜スリランカカレー)、増川草介さん(かりい食堂)

 

ここ数年ブームとなっている「スパイスカレー」。特に高円寺にはカレー屋が集中していて都内屈指のカレータウンとなっています。
そんなカレーの街、高円寺にある人気カレー屋の店主 3 人に高円寺の街とカレーについてのお話を“かりい食堂”にて伺いました。

カレー屋オープンまでの道のりは三者三様

―まずは自己紹介も兼ねてカレー屋をオープンするまでの経緯を教えて下さい。

大江:「大江カレー」の大江です。岐阜県に生まれました。最初からカレーに興味を持っていたわけではなかったんです。新宿の画材や文具の専門店である世界堂で働いていたのですが、近くに「curry 草枕」というカレー屋があり、食べに通っているうちにカレーに興味を持ち働くことに。2015~2019 年の 4 年間草枕で働きながら、個人的に間借りでカレー屋をしつつ独立の準備を進め、2019 年に高円寺で実店舗をオープンしました。

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児島:「月曜スリランカカレー」の児島です。私はスリランカに特化したカレー屋さんを「間借り」という形態でやっています。きっかけは、アーユルヴェーダ(インド・スリランカ発祥の伝統医療)を経験しにスリランカへ行ったこと。現地で食べた料理が美味しくてハマり、帰国してスリランカカレーを研究し自分で作るようになりました。最初はママ友に食べてもらっていたのですが「店出しなよ」と言ってもらえるようになり、2018 年に「716cafe」というシェアカフェを借りてカレー屋さんをはじめて、それ以降 4 年間続けています。

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増川:群馬県出身、「かりい食堂」の増川です。元々会社員だったのですが、雑誌に載っていたレシピを参考にしてカレーを作ってみたら美味しく出来たことをきっかけに、カレー作りにハマりました。インド&スパイス料理研究家でカレー伝道師ともいわれる渡辺玲さん主催のカレーの学校に 3 年間通い、カレーの技術を修得。自分で作ったカレーを妻や仲間に出していたのですが、評判が良かったので、間借りでカレーを提供するようになりました。間借りで借りていた場所のひとつが「ベトナム料理 ツバメおこわ」っていうお店だったのですが、その後、この場所が空くとのことだったので、バトンタッチして 2019 年にかりい食堂を開きました。

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―増川さんと児島さんは既婚者とのことですが、カレー屋さんを始めるとなったときにパートナーからの反対はなかったのですか?

増川:全くなかったですね。妻自身も仕事を持っているのですが、仕事が休みの日はカレー屋さんを手伝ってくれています。新作のカレーを作ったときは妻が味見係です。

児島:うちは家族に協力してもらうことはあまりありませんが、自由にやらせてもらえていることは感謝しています。また時間をもらってスリランカに勉強しに行きたいですね。

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間借りという新しい形態がスタンダードに

―先ほどから「間借り」というワードが出てきて 3 人とも経験されているようなのですが、間借りとは一体なんですか?

大江:実店舗を持たずに、飲食店やバーなどの営業時間外に店舗を借りてほかの店を出すことを間借りと言います。実店舗を開店する前に手ごたえを試すことができる上、リスクが少なくカレー屋をはじめられるのが良いです。

―児島さんは長く間借りで営業をしているようですが実店舗を持つ予定はありますか?

児島:今のところ予定はないです。私は結婚していて子供がいるので毎日店を開くまでのゆとりがありません。今のスタイルが自分に合っています。

―間借りでのメリットデメリットがあったら教えてください

児島:月曜日だけでなく不定期で杉並区の久我山などでも間借りでカレーを提供している
のですが、いろんな場所でいろんな人と会えるのが楽しいです。大変なのは大荷物を持って
移動しなければならないという事。鍋や食材など重い荷物を持って行くので間借りは力仕
事でもありますが、それも楽しんでやっています。

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カレーへのこだわり

―最近よく「スパイスカレー」という言葉を聞きますが、スパイスカレーとはどういうカレーをさすのでしょうか?みなさんが作っているカレーはスパイスカレーになるのですか?

一同:(首をひねる)

大江:スパイスカレーって聞くと、大阪発祥のスパイスがガツンと効いたカレーというイメージがあります。自分はそれを意識して作っているわけではないんですが、そう言われることはありますね。

児島:スリランカカレーもスパイスカレーと言われることがあって不思議な気持ちがしますが、スパイスを使っていることには変わりはないので間違いではないのかな・・?

増川:自分もスパイスカレーと思って作っているわけではないのですが、スパイスカレーと言われることはよくあります。そう言われても否定する気持ちはないです。

大江:よくミュージシャンが音楽のジャンルに縛られたくないって言う発言をすることがありますが、その気持ちと似ているかもしれないですね。

一同:(うなずく)

―お店で提供しているカレーについて教えて下さい

大江:食材ごとにスパイスを変えたり、提供時にスパイスの香りがしっかり届くようになどスパイスにこだわりを持ちながらも日本人が食べ慣れた味、日本の白米をおいしく食べられるカレーを追求しています。

児島:スリランカのカレーを再現しています。季節ごとに副菜が変わるのですが、それを混ぜて楽しんでもらえるようなカレーになっています。野菜もたくさんとれてヘルシー、日本人の舌にも合う味だと思います。

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増川:うちのカレーはスパイスをミックスしてふんだんに使用した刺激的な味わいが特徴です。インドのカレーをベースにしながら、月替わりでいろいろな国々のスパイシーなエッセンスが詰まった諸国漫遊的な料理を提供しています。

―聞いていたら食べたくなってきました。実際に作ってもらってもいいですか?

増川:いいですよ。7月に実際に店で提供していたアメリカ南部料理のチキンカレー「ごきげんなリンダ」をご紹介しましょう。

―ごきげんなリンダ?

増川:ニューオーリンズあたりで暮らす女の子、リンダが大好きなチキンカレーという妄想で作成したオリジナルレシピです。マニアックなスパイスを使ったりしていないので僕のカレーの中ではけっこう作りやすいカレーだと思います。

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●材料(4 人分)
鶏もも肉:2 枚
油:大さじ 3
ケイジャンスパイスミックス:大さじ 2(輸入食材屋で購入可)
ドライタイム:大さじ 1.5
レッドチリパウダー:小さじ 2
ブラックペッパーパウダー:小さじ 2
ターメリックパウダー:小さじ 1
シナモンパウダー:小さじ 2
クミンパウダー:大さじ 1
コリアンダーパウダー:大さじ 2
ガーリックパウダー:大さじ 1
玉ねぎ(中):1 個
レーズン:1 カップ
パプリカ:1 個
ズッキーニ:1 本
セロリ(葉も使用):1 本
マギーブイヨン:2 個
ダイストマトの缶詰 1 缶
マンゴーチャツネ:大さじ 2
塩:適量

高円寺の人気カレー屋の店主 3 人に話を聞く

●作り方
①鶏肉は大きめの一口大に切り分ける。玉ねぎは粗みじん切り、パプリカは一口大、ズッキーニは 2 センチくらいの輪切り、セロリは 2 センチ幅にカットする。

②鶏もも肉にケイジャンスパイスをふりかけよく揉み込み、30 分ほどなじませる。

③鍋を強めの中火で熱して油を引き、鶏もも肉を表面の色が変わるまで炒める。中までは火を通さず OK。その後、一旦取り出しておく。

④空いた鍋に玉ねぎを入れて中火のまま炒める。

⑤水分が飛び薄茶色になったら、トマト缶を 1 缶加え、トマトの形が崩れるまで木ベラ等でつぶす。

⑥全体的に沸騰したら、火を弱火にしてレッドチリパウダー、ブラックペッパーパウダー、ターメリック、シナモン、クミン、コリアンダー、ガーリックパウダーを鍋の中に入れ、スパイスに火を通すイメージで全体をかき混ぜる。スパイスが鍋底にこびりつかないように注意。水を 200ml 入れ強火にし沸騰させる。

⑦沸騰後に、鶏肉、パプリカ、ズッキーニ、セロリ、ドライタイム、レーズン、チャツネ、ブイヨンを加え食材がかぶるくらいまでの水を入れる。強めの中火で沸騰するまで煮込めば完成。

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―トマトの旨味たっぷりで美味しい!

増川:野菜をふんだんに使用するので、たっぷりの野菜が食べられます。カラダにもごきげんなカレーです。

―スパイスの香りがアメリカ南部を感じさせてくれて、なんとなくごきげんなリンダが浮かんできました(笑)

高円寺のカレーの歴史と親和性について

―高円寺のカレーの歴史について教えていただけますか?

増川:自分は高円寺に 20 年間住んでいるので、その歴史と変遷を見てきました。20 年ほど前は、名物のナマステママでお馴染み、「一歩入ればそこはインド」がキャッチコピーの「カレーハウス コロンボ」や、インドカレー老舗の「ニュー高円寺インディア」といった歴史ある名店こそありましたが、カレー屋が高円寺に特別多かったというわけではありませんでしたね。ただ、「元祖仲屋むげん堂」を中心とした、アジア諸国の輸入雑貨店がいくつもあったり、みうらじゅんさんが「高円寺は日本のインド」と言っていたりしたこともあってか、高円寺にはなんとなくインドっぽい雰囲気があったんですよね。そういったインドっぽい雰囲気が、後に高円寺を「カレーの街」たらしめることになる、土壌になったんじゃないかと思います。

児島:高円寺の商店街のマスコットキャラクターもサイケ・デリーさんっていうインド風のターバン被ったおじさんですしね(笑) サイケ・デリーさんのイラストをパッケージに描いたレトルトカレーっていうのもありますよね。

大江:「カレーなる戦い」っていうカレーのイベントもやっていて、杉並全体でカレーを応援してくれている雰囲気はありますよね。

増川:2011 年に「カリーショップくじら高円寺」、2016 年に「ネグラ 妄想インドカレー」、「インド富士子」、「ピピネラ」、2017 年に「スパイスカレー青藍」などが出来て、だんだんと広い意味でのカレー屋が増えてきました。更に 2018 年に「negombo33高円寺」、2019 年に「トルカリ高円寺店」、2020 年に「エリックサウス 高円寺カレー&ビリヤニセンター」と立て続けにカレー店がオープンし、一気に高円寺はカレーの街というイメージが定着してきたと思います。「Sho Curry」を筆頭とした間借りカレーも高円寺で随分見かけるようになりました。

―なぜ高円寺を選んだのですか?

増川:自分は元々バンドでヴォーカルを担当していたり DJ をやっていて、ライブやイベントでカレーを出していたんです。高円寺での開催が多かったこともあり、店を出すなら高円寺って思っていました。ちなみに「かりい食堂」の“かりい”は大好きなカヒミ・カリィさんから取っているんですよ。いつかカヒミ・カリィさんに食べに来てもらうのが夢です。

児島:わたしは若い頃に演劇をやっていた経験があるんですが、高円寺は劇団員が多く集まりますよね。その影響で高円寺に流れ着いたのかもしれません。あと自分が間借りをさせていただいている「716cafe」というシェアカフェの場所が好きなんです。高円寺駅から少し歩くのですが、雰囲気が良くとっても親切。SNS で告知してくれたりチラシも独自で作って配ってくれるので近所の方がふらりと食べに来てくれるんですよ。

大江:僕は元々古着や音楽が好きでよく高円寺に来ていました。特にアングラ系ロックが多く出演する ShowBoat っていうライブハウスによく行きます。写真を勉強していた経験もあり、カルチャーやアートが好きっていうのもあり高円寺に惹かれますね。

―食べにくるお客さんはどんな人が多いのですか?

増川:遠くからわざわざ来てくださるカレーマニアの方だったり、音楽系の人だったり・・様々ですね。

大江:うちもですね。最初はカレーマニアの人が多かったですが最近では地元の人が多くなってきました。

児島:私の所もいろいろな方が来てくれますが、近所の人が多く来てくれるのが嬉しいですね。年齢層も 20~50 代とさまざま。

今後の高円寺のカレー事情とこれからカレー屋を始める人へ

―これから高円寺にさらにカレー屋が増えると思いますか?また、これからカレー屋を開きたいという人にひとことお願いします

大江:ついこの間も新しい間借りカレー屋ができて食べてきました。新店の噂も聞くし、さらにこれから増えていきそうですね。

児島:そうですね、まだまだカレーの勢いは止まらなそうです。カレー屋さんを始めたい人は、まずは間借りカレーから始めたらいいんじゃないかな?

増川:高円寺はカレー激戦区ではありますが、仲良くなったカレー屋さんと情報交換もできるし、良い環境だと思いますよ。

大江:最初カレー屋を始めるときに高円寺の人に「2 年間は耐えてください」と言われました。確かに最初はお客さんが安定しなくて苦労しました。

増川:高円寺の人たちってすでに自分の行きつけのお店が確立してしまっているので、新しいお店が出来てもすぐに新しい方へ移るということはしないんですよね。

大江:そうなんですよ。思ったより簡単にお客さんが付くなんてことはありませんでした。お客さんが来ないと焦って料理を変えたりすると思うんですけど「メニューは自信のあるものを出しているなら容易に変えたりしないほうがいい」ってことみたいで。自分も最初の2 年間は苦労しましたが、大幅なメニュー変更はせず貫いていたら 3 年目でやっとお客さんが安定してきました。諦めないで自分を信じて続けること。それが大事なんだと思います。

増川:神保町や下北沢など「カレーの街」と言われている街は沢山ありますが、高円寺はさまざまなカルチャーとカレーが融合して独特な文化を持つ魅力的な街。カレーと共に街を楽しんでほしいですね。

~編集後記~
輸入雑貨店、ライブハウス、個人商店が林立し、元より「自由」、「混沌」、「喧騒」といった文化の根付く高円寺。固定観念に縛られず、新しい概念を許容し続けるスパイスカレーが、この地で独自の発展を遂げたのも、きっと偶然ではないでしょう。街中に広がるスパイスの香りに誘われて、是非皆さんも、日本のインドをトリップしてみては、いかがでしょうか。

ライター じょいっこ / スパイス系異国メシ愛好家

店舗情報

大江カレー
住所 杉並区高円寺南 4−7−5 久万乃ビル1階
電話 080-7806-0658
営業時間 11:30~15:00/18:00~21:00 ※L.O.は終了時間の 30 分前
定休日 水・木曜日
SNS(Twitter) https://twitter.com/s2curryoe
月曜スリランカカレー
住所 中野区大和町 3-21-1 716cafe 内 / 東京都杉並区久我山 4-1-3 BAR SOU 内
営業時間 11:00~16:00/17:30~20:30
定休日 火~日曜日(毎月 SNS で営業日を発表)
SNS(Instagram) https://www.instagram.com/getuyou_surilanka/
かりい食堂
住所 杉並区高円寺北 2−39−15
電話 090-9675-9423
営業時間 12:00~15:00 ※木金土は 18:00~21:00 も
定休日 月曜日&不定休(毎月 SNS で営業日を発表)
SNS(Twitter) https://twitter.com/kokuno_bito

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※本記事に掲載している情報は2022年09月09日公開時点のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。