中央線で個性的な本屋と「古本まつり」をめぐる

中央線で個性的な本屋と「古本まつり」をめぐる

杉並区は都内でも1、2位を争う古書店数を誇るエリア。2023 年 7 月現在 47 店 あり、神田古本屋街のある千代田区についで2位(ウェブサイト 「日本の古本屋」より)。高円寺では、宝探し気分でわくわくするような古書の即売会「古本まつり」がほぼ毎週開かれています。古本バル、児童書専門店、手作り雑貨が並ぶ古本屋など、個性的な本屋さんが多い西荻窪・阿佐ヶ谷・高円寺をめぐって、お気に入りの本と本屋を見つけませんか。

【西荻窪 ベンチタイムブックス】古本と手作りの紙雑貨

入口の青いテントが目印

入口の青いテントが目印

本屋めぐりのスタートは西荻窪の「 ベンチタイムブックス(benchtime books)」。JR西荻窪駅北口の路地を入り、支那そばの名店「いしはら」をはじめ、レストランやカフェが並ぶ通りを抜けた静かな住宅街は、散歩にぴったりのコースです。

店内でまず目を引くのが壁にかかったいくつもの額縁。中にディスプレイされた本がまるで絵画のよう。向かいの棚には、きれいな色の葉っぱモチーフのシールやしおり、ユーモラスなイラスト入りのカードやレターセットが並んでいます。これらの紙雑貨はすべて店主タカダさんの手作り。「最初は木目にインクをつけて刷ったブックカバーを作ったんです。そこから本物の葉っぱにインクをつけて刷った版画でしおりなどを作るようになり、木版を勉強してイラスト入りのカードなども作りはじめました。近所に郵便局があるんですが、お客さんにレターセットは無いの?と聞かれて便箋や封筒も、と種類が増えていきました」

種類豊富な紙雑貨は店内の工房で一枚ずつ手作りされている

種類豊富な紙雑貨は店内の工房で一枚ずつ手作りされている

ベンチタイムとはパンの生地を成形する前に一度熟成させる時間のこと。「この店を始めたとき、自分がまだ未熟でパンなら成形前だなと思ったことと、いったん日常から離れて少し休んで、ひと息つけるような店にしたいという意味を込めて名前をつけました」。児童書も充実していて、小さい子ども用の椅子も置いてあります。落ち着いた空間で、ゆったりと本を選ぶ時間はまさにひと時のベンチタイム。

レジ裏にある小さな印刷工房と店主のタカダさん

レジ裏にある小さな印刷工房と店主のタカダさん

棚のあちこちに並ぶ古道具も販売している

棚のあちこちに並ぶ古道具も販売している

ベンチタイムブックス
住所 杉並区善福寺1-4-1
電話 なし
営業時間 12:00-19:00
定休日 月・火曜 その他の休業日はSNSで確認を
Instagram https://www.instagram.com/benchtime_books/
X(元Twitter) https://twitter.com/benchtime_books

【西荻窪 月よみ堂】大人の古本バル

次に向ったのは古本バル。JR西荻窪駅南口から約7分。通称「ぞうさん通り」のピンクの象さんの下を抜けてまっすぐ進み、左手にある「月よみ堂」です。

カンパリソーダ700円、自家製の燻製盛り合わせ800円。店主のおすすめ本は、お酒や食べ物についてのエッセイでも名高い英文学者・吉田健一の作品

カンパリソーダ700円、自家製の燻製盛り合わせ800円。店主のおすすめ本は、お酒や食べ物についてのエッセイでも名高い英文学者・吉田健一の作品

ジャズが流れる店内でゆっくり本を選んで、カウンターでドリンクを片手にページをめくる…。「月よみ堂」は、一人の時間を静かに楽しみたい本好きにとって夢のような空間。本棚いっぱいの古本はカウンターに持ち込んで飲みながら読むだけでもOK、もちろん購入もできます。本のジャンルは様々ですが飲食に関する本も多く、お酒のお供にぱらぱらと読むにはぴったり。

バルといっても必ずドリンクを注文する必要はなく、普通の古書店として本を買いにくるだけでも大歓迎とのこと。また、時々出版記念のイベントやミニライブ、個展なども開催しています。その時は可動式の本棚を動かしてスペースを作る。古書店、バル、イベントスペースという様々な顔を楽しめるお店です。

レモンサワー650円 おつまみのラインナップも充実

レモンサワー650円 おつまみのラインナップも充実

月よみ堂
住所 杉並区西荻南2-6-4
電話 03-6454-2037
営業時間 14:00-24:00(日曜のみ22:00閉店)
定休日 月曜 その他の休業日はSNSで確認を
Instagram https://www.instagram.com/tsukiyomidou/
X(元Twitter) https://twitter.com/tsukiyomidou

【阿佐ヶ谷 子どもの本や】定番の絵本から大人向けまで

西荻窪から2駅東の阿佐ケ谷駅へ。阿佐谷パールセンター商店街の蒲重蒲鉾店を曲がるとすぐ、黄色い看板が目印の阿佐ヶ谷で長く愛されている児童書専門店「子どもの本や」があります。正面がガラス張りでとても明るい店内。カラフルな絵本の表紙を眺めるだけで元気が出そう。並んでいるのはすべて新刊書。「ミッフィー」で長く親しまれているディック・ブルーナや『かいじゅうたちのいるところ』のモーリス・センダックの絵本をはじめ『ちいさいおうち』『しずくのぼうけん』など、定番の作品がずらり。珍しい海外の絵本や少し長めの物語の本まで、心から楽しめるようにと厳選された本ばかりです。「子どもの本や」を運営する4人のメンバーの一人、松本さんは「はじめはPTAのクラブ活動として皆で絵本を読んだり、学校で読み聞かせをしていたんです。そのうち「お子さんがどれを手にとっても面白い本ばかりの本屋が開けたらいいね」という話になって。気がついたら30年経っていました」。1993年、阿佐谷北の知人の庭先の小さな店からスタートし、2000年にかわばた通りに移転。2006年から現在の場所で営業しています。

子どもの目線に合わせたディスプレイ。奥の棚には児童文学や大人向けの本も

子どもの目線に合わせたディスプレイ。奥の棚には児童文学や大人向けの本も

子どもの本やでは毎月1回、2~3冊の本を定期的に届けてくれる「本の定期便」サービス(※)を行っています。子ども一人ひとりの成長に合わせて相談しながら本を選択してくれるスタイル。誕生祝いや入園入学祝いとしても好評で、海外にも届けることができます。
「本をお送りしたあと、感想をいただくことがあります。毎月届く本の包みを心待ちにしているお子さんや、夕飯も忘れて本を読みふけるお子さんのお話を伺うと本当に嬉しくなります」と松本さん。「本を読んで知識が増えたり国語力がつく、というのは結果の話で、お子さんが心から楽しめる本とたくさん出会い、本を好きになってくれることが一番だと思って本を選んでいます」。

※:本の定期便:代金は月によって異なり毎月2~3冊で平均2,500円前後(消費税別)、送料はおおよそ370~520円。詳細は店舗に直接問い合わせを

子どもの本や

住所 杉並区阿佐谷南1-47-7
電話 03-3314-3455
営業時間 火・金・日曜13:00-16:00
定休日 月・水・木・土曜、年末年始
ハテナブログ https://kodomonohonya.hatenablog.com/

【高円寺 古本まつり】歴史ある古書会館で本の宝探し

即売会は普通18~19時までですが、最終日は17時閉場の場合が多いので注意を

即売会は普通18~19時までですが、最終日は17時閉場の場合が多いので注意を

本屋めぐりの最後は高円寺駅北口から徒歩5分、「西部古書会館」へ。1968年に落成した建物で、「東京都古書籍商業協同組合 中央線支部」のホームグラウンド。ほぼ毎週末に「古本まつり」と呼ばれる古書即売会が開催されています(第三週末を除く)。古本まつり以外の日は閉館しているのでご注意を。即売会は複数の古書店が合同で開き、会によ って違う店の商品が並びます。この日は最近の小説から学術書、和本、画集やポスターなど、バラエティに富んだ品ぞろえの大特価品が並ぶ「期末・古書 青札市」。棚を眺めるだけでも楽しくて、時間があっという間 に過ぎてしまいそう。

会場内の本は即売会のたびに全て入れ替えられる。

会場内の本は即売会のたびに全て入れ替えられる。

膨大な本の中から、自分だけの一冊に出会えるかも

膨大な本の中から、自分だけの一冊に出会えるかも

【古書即売会の新風、「ヴィンテージ・ブック・ラボ」】

新宿・中野・阿佐ヶ谷・西荻窪・武蔵小金井など中央線沿線の古書店が共同で、西部古書会館での新しい即売会「ヴィンテージ・ブック・ラボ(以下VBL)」を立ち上げたのが2022年8月。SNSを駆使した新しい形の古書イベントとして、古書好きからの注目を集めています。VBLのレギュラー参加メンバーの三暁堂店主・梶塚暁大さんと盛林堂書房店主・小野純一さんにお話を伺いました。

左:梶塚さん 右:小野さん

左:梶塚さん 右:小野さん

「東京都古書籍商業協同組合ができたのは1920(大正9)年で、2020年には設立100周年を迎えています。実は歴史が長いんです。」と梶原さん。小野さんは「杉並区は古書店がとても多い区です。大正12年の関東大震災そして昭和の戦火を経て、都市部から武蔵野方面に人口が流入し、市域が拡大していったことが理由の一つではないかと。インフレと物資不足で、文学青年や愛書家が自分の本を売るために開業したと言われています。」

小野さんも編集に加わり2年かけて完成した「東京古書組合百年史」(発行/東京古書籍商業協同組合)。読み物としても楽しい

小野さんも編集に加わり2年かけて完成した「東京古書組合百年史」(発行/東京古書籍商業協同組合)。読み物としても楽しい

祖父から店を受け継いだという小野さん。「うちの店は祖父の代の昭和24年創業で、井伏鱒二や開高健、松本清張など杉並に住んだ作家がよく訪れていたんですよ」と、太宰治や石井桃子など昭和時代の多くの作家たちと縁が深い杉並ならではのエピソードも。

VBLについて梶塚さんは「今までにない古書催事のあり方を、インターネットを活用しながら模索していこうと立ち上げました。コロナ禍で、古書業界は大きな打撃を受けなかったのですが、インターネット古書店「日本の古本屋」をはじめネット上での販売スタイルが定着してきていたことも理由のひとつではないかと思います。VBLでは画像付きのweb目録を公開して、会場販売品をメールでも受注できるようなシステムを作りました。会場での試みとしては、表紙が見える「面置き」を多くしたことですね。置ける本の数が減ってしまうのは辛いところですが、見やすい、と棚の写真をSNSにアップしてくれるお客さんも多くて好評です。新しいシステムの導入や価格の見直しなど、色々な試みをこれからも続けていきたいと思っています」。

ヴィンテージブック(古本)+実験室(ラボ)を表したロゴマーク

ヴィンテージブック(古本)+実験室(ラボ)を表したロゴマーク

即売会の楽しみ方を伺うと、「朝10時の開場直後はかなり混みます。14時過ぎに来てもらえればゆっくり本を見られると思います。」と小野さん。梶塚さんは「古本屋はセレクトショップなんです。店主が厳選して値段をつけたものが置いてある。つまり古本屋の最大のコンテンツとは、店主その人。ぜひそれを楽しむために、見るだけでもいいので散歩がてら来てもらいたいですね」。

今回の本屋をめぐる散歩では、本と雑貨と美味しい一杯を満喫しました。中央線沿線には個性的な本屋がまだまだたくさん。次はどんなお店と本に出会えるでしょうか。

取材:仲町みどり 撮影:西荻じゅん、仲町みどり

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※本記事に掲載している情報は2023年08月29日公開時点のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。