杉並にはパンの歴史に名を残すエピソードが多数。太宰治が愛した幻のパンも
人気のパン屋がひしめく高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪、西荻窪のJR中央線4駅周辺。実はこのエリアには、かつて日本のパンの歴史に登場するパン屋があったのをご存知だろうか。日本で初めてアメリカ式のドライイーストで発酵させた食パンの製造を下谷黒門町で始めたレジェンド、田辺玄平氏の店「丸十」で学んだ雨宮平三郎氏が大正14年に創業した「高円寺丸十パン」。その後「ヒロセ丸十ベーカリー」として令和に至るまで100年近くも地元で愛されている。また、現在の荻窪駅北口周辺にかつてあった「小澤パン店」。ここの“ステッキパン”は、昭和初期に荻窪に住んだ小説家の太宰治の好物で、太宰の親友の伊馬春部の戯曲にも「荻窪の小沢のパン…」と実名で登場する。そんな杉並4駅エリアでは、今では個性的なパン屋が軒を連ね、地元のみならず遠方からもファンがやって来る。
今回は、アンケート(※)で高評価を得たパン屋5店から、ケーキ屋にも負けないと評判の甘いパンと、しっかりお腹が満足する惣菜パンを1点ずつ紹介。もちろん、紹介しきれなかったパンも絶品ばかりなので、ぜひお店に足を運んでみてほしい。
※この記事は2023年9月に行った「中央線あるあるPROJECT」読者アンケートを参考に取材・構成したものです。アンケートにご協力いただいた皆様、ありがとうございました!
パンとビストロ高円寺FLAT(JR高円寺駅徒歩1分)
2023年3月、JR高円寺駅高架下にオープンしたベーカリー&カジュアルフレンチの店。パンはテイクアウトはもちろん、店内で好きなフードやドリンクと組み合わせてOK。おしゃれな古着屋の多い高円寺に集まる若者だけでなく、幅広いメニューや早朝からオープンしているのでシニアやファミリー層にも評判が良い。スイーツ系ではドーナツ以外にもポルトガルにルーツを持ちハワイ名物として有名になった揚げ菓子のマラサダ、クリームのコクと軽めのパンの相性が好評でリピーター多数のミルクフランスなどがある。
グレーズドーナツ(フランボワーズ)
つややかな赤い色が目を引くグレーズ(つやを出す砂糖のコーティング)ドーナツ。甘酸っぱいフランボワーズのグレーズは意外に甘すぎず、軽い口当たりのドーナツ生地とマッチしている。人気商品のマラサダと同じ生地を使っており、ふかふかで新食感のドーナツだ。
明太フランス
明太クリームがふんだんに使われた明太フランス。パリッとした心地よい食感のバゲットは縦と横に切れ込みが入っており、ちぎって食べやすくなっている。辛すぎずマイルドなので1本まるごと軽く食べられる。
- パンとビストロ高円寺FLAT
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住所 杉並区高円寺南3-70-1高円寺マシタ 電話 03-5364-9330 営業時間 8:30~23:30 定休日 年末年始、臨時休業日あり Webサイト https://www.instagram.com/kouenjiflat/
草鞋ベーカリー(JR阿佐ケ谷駅徒歩6分)
夏の七夕まつりや秋の阿佐谷ジャズストリートなどのイベント、そして阿佐ヶ谷姉妹で今やすっかり有名になった、阿佐ヶ谷。北口を出て正面の阿佐ケ谷駅前北口ビルを通り抜けて松山通りを少し歩くと、近隣の農家から届く野菜をふんだんに使った、野菜が主役のパン屋、草鞋(わらじ)ベーカリーがある。「旬野菜が主役のパンを届けることで、農家さんと地域の人を、そして健康的な未来を紡ぎたい」との店主の思いに、健康的で美味しいと地元ファンが多数集まる。季節ごとの野菜を使った新作も楽しい。
さつまいもハニーバター
さつまいもハニーバターは人気の高いバトン状のパン。中身のさつまいもには、はちみつとバターがからんでしっかり甘く、パン生地は粉チーズの風味と塩味が加わり、さつまいもの甘みを引き立てている。
ごろごろ野菜のスパイスカレーパン
15種類の野菜がたっぷり入ったカレーパン。クミン、コリアンダー、カルダモンなど、こだわり抜いたバランスのスパイスが複雑で爽やかな辛さを生んでいる。大きめにカットした野菜のフレッシュな口当たりはまるでサラダを食べているようで「罪悪感ゼロですよ」と店主は言う。
- 草鞋ベーカリー
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住所 杉並区阿佐谷北1-35-5ヴィラージュ1F 電話 070-2219-5597 営業時間 11:00~完売しだい閉店 定休日 不定休 SNS https://www.instagram.com/waraji_bakery/
Honey 荻窪店(JR荻窪駅徒歩2分)
JR荻窪駅南口からすぐの人気店。南口は大田黒公園、角川庭園、荻外荘(2024年12月公開予定)の荻窪3庭園のあるエリア。散策前にパンのテイクアウトはいかがだろうか。ボリュームたっぷりのサンドイッチやオリジナリティあふれる多種類のパンが楽しめ、コンパクトな店内はいつもにぎわっている。自家製カスタードのクリームパンをはじめ、甘いパンも多数。阿佐ヶ谷に姉妹店あり。
生チョコフランス
見た目はシンプルだが、一口食べるとその奥深い味わいに驚く。パンからはみ出すたっぷりのチョコはクーベルチュール(国際規格で一般の板チョコよりカカオバターの含有率が高く定められている)を使った自家製の生チョコレート。もっちりと柔らかめのフランスパンにはほんのりとした塩味が感じられる。チョコ好き、パン好きの両方をうならせる一品だ。
バインミーサンド
店主がニューヨークで食べたバインミーにインスパイアされて作った具があふれそうなバインミーサンド。甘辛の肉みそをベースに、自家製ローストポーク、大根と人参のなます、レタス、玉ねぎ、パクチー、しそのフレッシュな野菜をサンド。ランチにぴったりのボリュームだ。
- Honey 荻窪店
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住所 杉並区荻窪5-29-8荻窪弐番館1F 電話 03-5397-8611 営業時間 9:00~19:30 定休日 年末年始、臨時休業日有り SNS 店舗 https://www.instagram.com/honey_ogikubo/
フードトラック https://www.instagram.com/honey_ogikubo_foodtruck/
Zermatt(ツェルマット)(JR荻窪駅徒歩20分)
天然酵母のパンと焼き菓子が人気の、行列のできる店。地域の人たちのさまざまなニーズに応えられるようラインナップは幅広い。フレッシュなフルーツが目に鮮やかなデニッシュやクロワッサン、日替わりの食パンなどに加え、ベーグルは好みの味にカスタマイズもできる。すぐ近くには善福寺川緑地公園、川沿いを歩けば杉並区立杉並児童交通公園もある。散策しながら食べるのもおすすめだ。
ソイバターサンド(ずんだ)
見た目も楽しいソイバターサンドは常時4種類。大豆由来のクリームにマスカルポーネチーズと塩を加えたふわふわの白いソイバターはZermatt(ツェルマット)のオリジナル。生地は食パンと同じだが、低温で焼いているため、食パンとは違う軽い食感になっている。定番で人気のあんバターなどのほか、桜や栗など季節の味が登場する。
サバサンド
焼き塩サバ、サニーレタス、紫玉ねぎのスライス、トマト、ケイパーをサンド。レモン果汁の風味が効いて、青魚を使っているのに不思議とさっぱり食べられるヘルシーなサンドイッチ。パンはもちもちのチャバタ(牛乳やバターを使わないパン)で、サバと相性のよいシンプルな味わい。
- Zermatt(ツェルマット)
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住所 杉並区荻窪3-8-6 電話 03-3392-0667 営業時間 10:00~17:00 金・土のみ~18:00 定休日 月曜、年末年始 SNS https://www.instagram.com/zermatt.pan/
藤の木(JR西荻窪駅徒歩3分)
JR西荻窪駅北口の伏見通り商店街に、西荻で長く愛されるパン屋、藤の木がある。三代目店主が考案した焼きチーズカレーパンはカレーパングランプリで連続受賞している逸品。また、店の隣のパンの無人販売コーナー「藤の小箱」は、営業時間外にも買えて便利と話題になっている。少し先には老舗の喫茶店、物豆奇や、「トトロの木」として親しまれているけやきの大木がある区立坂の上のけやき公園など、西荻窪散策の折に立ち寄りたいスポットも多数。
藤の木クリームパン
なめらかでしっかり濃いけれど甘すぎない自家製カスタードクリームは、試作に試作を重ねた末の自信作。クリームたっぷりで、ひとくち目から味わいが楽しめる。トッピングのアーモンドスライスがアクセントだ。
半熟玉子がのった焼きチーズカレーパン
日本カレーパン協会主催のカレーパングランプリ・チーズカレーパン部門で2019年から5年連続、金賞を受賞。半熟玉子の下にはダイスカットのゴーダ、上にはモツァレラ入りのシュレッドと2種類のチーズを使用。カレーは鶏肉、牛肉、じゃがいも、玉ねぎ、人参の入った懐かしいタイプのカレーで、甘口と中辛をブレンド。半熟玉子がカレーにまろやかさを加え、隠し味のマヨネーズが効いている。
- 藤の木
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住所 杉並区西荻北3-16-3 電話 03-3390-1576 営業時間 8:30~19:00 定休日 日曜、祝日、年末年始 SNS https://www.instagram.com/nishiogi_fujinoki_1937
※掲載内容は2024年2月に取材したものです。
※価格は原則税込価格で表示しています。
※重量・サイズは撮影時のもので、大まかな目安です。実際の商品とは異なる場合があります。
※記載する価格は諸般の事情により予告なく改訂することがありますので、ご了承ください。
取材・文: 仲町みどり 撮影:みやざとみなみ
参考: すぎなみ学倶楽部(https://www.suginamigaku.org/)