倉嶋紀和子のはしご酒のススメin荻窪

普通にはしご酒するのみならず、よその町に呑みに繰り出す前にひとり0次会として、 そしてよその町で散々はしご酒してきた後にひとり〆の酒として、酩酊のサンドイッチ状態で呑んでいる町、それがあたしにとっての荻窪。住まいを構えている町だからこそ、最も弛緩して酒に溺れられるのである。這ってでも帰宅できることに気を許しすぎて、とある夜は、泥酔路上寝までしでかしてしまったこともある。それでも今もこうやってへべれけをやっていられる。実に安心安全な町なのだ。今回は、そんなマイホームタウンの酔い酒場をご紹介。

吊るし切りされたあんこうを、鍋と日本酒で「かみや」

まず向かうは、駅前の大衆酒場「かみや」。夕方4時半からおとうさん方で賑わっている、地元で愛されているお店。61年にも渡って荻窪住民達の肝臓を癒してきた名店だ。あたしも、ひとり0次会の場所として、口開け呑みをさせて頂いている。

2代目ご夫妻と3代目ご夫妻が一緒に切り盛りしているTHE家族酒場。あたし、家族が一緒に立ち働いている姿を眺めながら呑むお酒が、ことのほか好き。だから、定位置は、カウンター席。ここでひとりホッピーをやりながら、若大将と言葉を交わしたり、大将と若大将が絶妙の間合いで厨房を行き交っているのを眺めたり。この光景だけでも大変なる酔いつまみになるのです。

別添えの厚手グラスに、こぼれんばかりに甲類焼酎を注いでもらいながら、季節のぬた。必ず注文する1品。この小鉢に6種類ものお刺身が入っているんですよ! 鮪に赤貝、酢味噌の下からシャコがひょっこり顔を出したり、ワカメを摘んだ横からは蛸が出てきたり、まるで宝箱のような酒肴。

幾種類ものお刺身をちょこちょこっといいとこ取り。そんな酔き酒肴の次は、あんこう鍋。常連さんたちが毎年この季節を心待ちにしているという、「かみや」名物のあんこう。1匹丸ごと買い求め、厨房で吊るし切り。新鮮極まりないあんこうが堪能できるってわけ。しかも、お鍋も1人前から注文可能。ひとり酒派にとってこんなに嬉しいことはない! 味付けは、醤油ベース。あっさりとしながらも、あんこうのコクが実によく融けだしている滋味深い味わい。〆の雑炊用にスープを残しておこうと思うものの、ついつい完飲。このスープ、お酒にものすごく合うのだ。それほどまでにいい出汁が出まくっている黄金のスープ。2代目大将が、神田の老舗あんこう鍋屋に通って勉強した味だとか。さすがの旨さ。調子に乗って、日本酒の徳利2ついただき、ああ、いい気持ち。それではお次へとはしごしますか!

駅西口から徒歩1分。老舗らしいクラシカルな佇まいです。

駅西口から徒歩1分。老舗らしいクラシカルな佇まいです。

まずはホッピー(590円)で乾杯!

まずはホッピー(590円)で乾杯!

ぬた盛り合わせ(480円)と季節限定の名物・あんこう鍋(1150円)。日本酒の富貴を合わせます(1合310円)。

ぬた盛り合わせ(480円)と季節限定の名物・あんこう鍋(1150円)。日本酒の富貴を合わせます(1合310円)。

3代目の小山昌宏さんと。

3代目の小山昌宏さんと。

お店の歴史を物語る貴重な写真を見せていただきました。

お店の歴史を物語る貴重な写真を見せていただきました。

かみや
住所 杉並区荻窪5-26-8
電話 03-3393-2963
営業時間 16:30~23:00 土・祝16:30〜22:00
定休日 日曜

焼酎も、日本酒も、一升瓶からセルフ呑み「ありよし」

あんこう鍋と日本酒で身体もホカホカ。ほんのり赤ら顔で、駅から徒歩10分ほどの家庭料理のお店「ありよし」へ。この距離、はしご酒時の酔い覚ましにピッタリ。

まずは、米焼酎白岳をお湯割りで。一升瓶とともに登場するは、南部鉄瓶。これがあたしのお気に入り。お湯の口当たりを丸くするという南部鉄瓶。味うんぬんもそうだけれど、あたしはこの渋い風情にメロメロ。ママ、呑兵衛の気持ちよくわかっているなあ。でも実は、ママは全くの下戸。なのに、よくぞこんな手間のかかる道具を使っていらっしゃることだ。尊敬!

おつまみは、この1皿で何杯呑めるんだ! というくらいお酒を進ませまくる酒肴が4品揃った名物のお通し。明太子の昆布締めは禁断の旨さ。プリン体が怖くて酒呑みやってられるか! ムフムフしながら、白岳の一升瓶をむんずとつかむ。そう、ここは、お酒は客が自ら注ぐシステム。「お酒まで手が回らなくて。お客さんにご面倒おかけしちゃっているのよ」とおっしゃるも、いやいや、むしろ、酒呑みにとって、こんなうれしいことあろうか! なんたって、自分の好みの濃さで呑めるんですから。ちなみにあたしは、焼酎7、お湯3です。

お次は、看板メニューの「肉じゃが」。これ、ただの家庭料理だと思っちゃいけません。じゃがいもはこっくりほくほくで、玉葱はシャッキリシャクシャクで。それぞれの食材の食感が存分にいきている。全材料を一緒くたに煮込んだらできない芸当。1食材ずつ、個性にあわせて別々に仕込んでいるからこそなせる技なのだ。あまりの美味しさに、夫にも食べさせたい! と、ママに無理を言って持ち帰らせていただいたことがあるほど。普段、全く家庭を顧みない妻だけれど、こういう時は、夫のことが、ふっと脳裏をよぎるんですねえ。実はいい妻なのだ。誰も褒めてくれないから、自画自賛。

お店の前に並べられた素敵な鉢植えが迎えてくれます。

お店の前に並べられた素敵な鉢植えが迎えてくれます。

ママがひとりで切り盛りする店内はカウンターのみの落ち着いた雰囲気。

ママがひとりで切り盛りする店内はカウンターのみの落ち着いた雰囲気。

南部鉄瓶でつくる焼酎のお湯割りは格別です。

南部鉄瓶でつくる焼酎のお湯割りは格別です。

この表情がそのことを証明していますね。

この表情がそのことを証明していますね。

倉嶋さん絶賛の肉じゃが(1200円)とお通し(600円)。ママは料理の先生でもあります。

倉嶋さん絶賛の肉じゃが(1200円)とお通し(600円)。ママは料理の先生でもあります。

ありよし
住所 杉並区上荻2-20-6
電話 03-3392-7889
営業時間 18:00~23:00
定休日 日曜・月曜

ジャックローズに秘められた欲望「ルトロワ」

ママの手料理で白岳のお湯割りをどっぷり手酌酒した後は、〆のお酒を求めて、バーへ。「ルトロワ」。よその町ではしご酒しまくった後も、ふらり立ち寄ってしまうお気に入りのバー。カウンター席のみの、しかも5人も入ればもう満席の狭小酒場。メタボのくせに狭い処好きのあたくしめ、この狭さもお気に入り。さらにマスターは、同じ歳。だからでしょうか。無性に落ち着く空間でもあるんです。

ほぼ定位置の隅っこに腰をかけて、まずは、ジントニックを。くぅ~、すっとするなあ。この爽やかさがたまらん。ニヤニヤニヤ、ニヤニヤニヤ、ニヤニヤニヤニヤ。。。そしてブラックアウト。そう、この日、ここでいろんなもの~信用・信頼・記憶・取材ノート~を失っているのです。

取材中だろうが構わず記憶を失うまで鯨飲する。それが日常茶飯事の大馬鹿者です、あたし。後日、マスターに記憶を埋めていただいたところによると、この後、スコッチ<ジョニ赤>のハイボールをコクコクと呑み干し、撮影も終了したというのに、勝手に、ジャックローズをオーダーしたとか。ジャックローズ。ザクロを使用した、季節のカクテル。なぜにそんなシャレオツなものを? マスターからその日の様子を教えていただきながら思い至ったのが、そうか! あたし、マスターのシェーカーを振っている姿を見たかったんだ! あの色気ありまくりの様を。記憶失うほど酩酊しながらもそんな欲望をうちに秘めていたとは。。。我ながら、恐ろしい。

正統的なバーらしい渋い外観。

正統的なバーらしい渋い外観。

席は5つのみ。まさに狭小酒場です。

席は5つのみ。まさに狭小酒場です。

お店に到着するなり、ジントニック(900円)をぐびぐび飲む倉嶋さん。

お店に到着するなり、ジントニック(900円)をぐびぐび飲む倉嶋さん。

里見さんにつくっていただいた渾身のジョニ赤のソーダ割(900円)。しかし倉嶋さん、この時点で記憶をなくしていたとは。

里見さんにつくっていただいた渾身のジョニ赤のソーダ割(900円)。しかし倉嶋さん、この時点で記憶をなくしていたとは。

ルトロワ
住所 杉並区荻窪4-21-17
電話 03-3391-3575
営業時間 19:00~3:00
定休日 日曜

さて、これでおとなしく帰路についているかというと、そんなこと、ありうるはずもなく。取材中のことすら忘れるほど泥酔しているというのに、あたしの外部記憶装置(=スマホ)によると、この後、「よるべ」、「鳥もと2号店」とはしご酒を重ねていたらしい。酔い酒場揃いで、なかなか家にたどり着けない、魔の町、荻窪。

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※本記事に掲載している情報は2016年01月08日公開時点のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。