西荻窪、阿佐ヶ谷、荻窪と巡ってきた中央線沿線はしご酒。最後を飾るは、高円寺。4つの駅の中で、もっとも若人遭遇率の高い、平均年齢若めの町。とはいうものの、高円寺の駅前ランドマーク酒場「焼鳥 大将」には、真っ昼間からお酒に馴染んでいる常連おじさまの姿もあり、呑んだくれ中高年万歳!! の町でもあります。ご多分に漏れず、あたくしめも、「焼鳥 大将」で1杯、いや2杯、いやいや3杯、4杯とひっかけて、今回のはしご酒へと繰り出したのでありました。
路地裏の一軒屋で貝と日本酒三昧「あぶさん」
酩酊時のみならず、素面でも超方向音痴のあたくしめ。にも関わらず、高円寺に来ると、路地につぐ路地が楽しくて、ついついあてどもなくふらふらと迷いこんでしまう。しかも薄暗ければ薄暗いほど涎が出てしまう暗闇路地好き。ここ「あぶさん」も、うっかりすると見落としがちな、細い路地にある。それに加えて、仕舞屋風の古い一軒屋ときたもんだ。なんちゅう鄙び感♥ 路地奥は、袋小路。そこには、共同トイレと井戸。実に酔い風情の塊。なれど、当然のごとく迷子にならずに辿り着いたことは皆無。それでも行きたくなる麻薬的な酒場。そう、店名の「あぶさん」。これはあの魔性の酒「アブサン」由来なのです。
さて、ここは貝専門。つぶ貝にミル貝、マテ貝……。貝好きのあたくしめにとって、地上の楽園、極楽酒場。この日もさっそく、お刺身をお任せで。「タイラ貝、青柳、赤貝」。あたしの大好物ぞろい。くにゅ、むちっな歯ごたえを堪能しながら、日本酒を。信州上田の「福無量」。大吟醸の華やかな香りが、貝の甘さをますます膨らませます。日本酒1杯め、即完飲。すかさず注いでくださるは、「醸し人九平次」。ぬお! あたしが日本酒の美味しさに目覚めたきっかけのお酒だ。こりゃあ、嬉しい。もっと注いで~。ここ「あぶさん」には、正1合がきっかり入る大きなお猪口もあります。普段はそれを使用させて頂くことが多いのですが、この日は、名目上取材ということで、おとなしく普通のお猪口で。お次は、焼き貝を。「ホッキ貝の酒盗乗せ、大アサリの海苔焼き、白貝の醤油焼き」。出た! 焼き貝三銃士。酒盗ですってよ、海苔ですってよ、醤油ですってよ。どれもこれも酒を進ませる味付けではないですか。日本酒おかわりくらは~い! この時点ですでにろれつも怪しくなりながら「東北泉 瑠璃色の海」。 ここは、貝も素敵だけれど、日本酒のラインナップも酒呑みのツボを抑えまくっているんです。これからあと2軒はしご酒というのに、もうすでに立派な酔っぱらいの完成。今回も、最後まで記憶がもつのかしらん…。
- あぶさん
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住所 杉並区高円寺北2-38-15 電話 03-3330-6855 営業時間 17:30~1:00(L.O) 定休日 水曜
大将と酌み交わしながら食す名物・味噌だれ焼き「ディズ」
酔い貝に酔い酒三昧で、天にも上る気持ちになりながら、ふわりふわりと向かうは、「ディズ」。焼鳥屋です。創業して16年。オーストラリアの雑誌にも紹介され、海外からのお客さんでも賑わっているワールドワイドな酒場(※)。あたしは、ここの大将の実直な仕事っぷりに魅了されているのですが、さて、この日。お店の扉を開けると…。テーブル席に大将、スタンバイ。そう、一緒に呑もうとお待ちかねなのでした。とっても一本気な大将、その焼鳥にかける想いは熱く、熱く。そんな話を以前、インタビューさせて頂いた時も、大将とここで酌み交わしながらでした。大将は、超絶職人でありつつ、超絶呑兵衛でもあります。酒好き、酒場好きな大将のお店。そりゃあ、居心地がいいに決まってます!
焼鳥の酔き伴走酒・バイスを呑みながら、看板メニューの「みそダレ焼き」を。くぅ~、これこれ。この味噌だれがど変態的に酒を呼ぶんだよねえ。西武新宿線沿線を中心に次々と暖簾分けの酒場が増殖し、もつ好きの西の聖地と名高き野方「秋元屋」。そこの大将のご修行先としても有名なもつ味噌焼きの名店・蕨「喜よし」の味噌を、焼鳥にも合うようにアレンジされたものが、「ディズ」の味噌だれ焼き。美味くないはずがない。ここは「喜よし」大将の弟さんのお店でもあるのです。ちなみに「喜よし」大将も「ディズ」大将に負けず劣らずの酒豪。酒呑み兄弟でもいらっしゃいます。
さて、呑兵衛女性陣に大人気の「アボカドバター醤油焼き」も頂いたところで、お次、行きますか! もちろん、大将も一緒に。
- ディズ
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住所 杉並区高円寺北3-5-17 電話 03-3336-2545 営業時間 平日17:00~24:00(L.O) 土日祝16:00〜24:00(L.O) 定休日 不定休
見果てぬ夢、文雅呑み「コクテイル書房」
「ディズ」を出て、5秒。「コクテイル」。酔い酒場には、酔い酒場が隣り合わせ。「ディズ」&「コクテイル」が並ぶこのストリートは、「七助」に「波やし」に、ちょいと路地に入れば「きど藤」と、素晴らしき呑兵衛通り。はしご酒にことかかないエリアなのです。
正式名称は「コクテイル書房」。その名の通り、本が山のように積まれた酒場。このまるで書斎のような空間で呑む酒が、なんと大人の味のすることでしょう。しっとり文雅に呑みたい雰囲気。それこそがあたしが「コクテイル」を好きな理由でもあるのですが…。実は、ここは、来る度に酩酊ばかり。むしろ、酩酊しかしていない酒場でもあります。そろそろ出禁になるんじゃないか…。そんなおそれを抱いているあたくしめに、「いつも楽しそうに呑んでいらっしゃいますねえ」なんてやさしい言葉をかけてくださる店主の狩野さん。どうしようもない酔っぱらい(=あたし)も、受け入れてくださる度量の広い御方。本当にありがたい。
さて。今日も、いつもの「大正コロッケ」を。ここは、エッセイや小説に登場するメニューを、狩野流アレンジを加えながら再現する「文士料理」も名物。「大正コロッケ」は、檀一雄の『檀流クッキング』に出てくる酒肴。おからと魚のすり身のヘルシーなコロッケです。揚げ物好きのメタボなあたくしめ。これなら、妙な罪悪感なく、ぺろっと食べちゃえるんですねえ。そして、この日、初めて食べたのが、高峰秀子の『台所のオーケストラ』から「真鯛塩昆布和え」。著作では刻み昆布のところを、狩野流に塩昆布にアレンジしたもの。これが、芋焼酎「さつま白波」のお湯割りによく合う! 文士料理の由来や、その本のことも伺いながら呑む酒の、ますます馥郁たることよ。知識を得て、少しは賢くなったか、と思いきや、まあ、やっぱり、酩酊記憶喪失という有り様なのですが…。いくら教えても教え甲斐のない学習能力ゼロな人間なのです。でへへ。
- コクテイル書房
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住所 杉並区高円寺北3-8-13 電話 03-3310-8130 営業時間 18:00~24:00 定休日 火曜・第2第4月曜
さて、呑んで呑んで呑まれて呑んでのはしご酒企画。最終駅の高円寺。この町で、きっちり呑み〆しようと思い、取材後「七助」に足を運ぶつもりだったのですが、どうやら、「ディズ」大将と、河岸を変えて、荻窪まで遠征していた模様。酒場好きは、あくまでもどこまでも気の向くまま、足を運んでしまうもの。その町のみならず、駅から駅へと途中下車しながらのはしご酒、それもまた楽し。